火山の噴火により大地が生まれる。大地は水のもたらす作用により形を変える。大地と海との温度差により風が吹く。そんな様々なエレメントの相互作用の中で生命が生まれる。昨年は未知の土地を訪れる際の最大の関心を都市空間の多様性を見極めることに向けていたけれど、今年の三月に被災地を訪れて以来だろうか、最近はむしろ自然の諸力のダイナミズムの中でヒトという種の営みをどのように位置づけられるかに関心がある。
ヒトの営み、例えば衣・食・住。もちろん食文化があるレベルで自然の営みの反映であることなど自明なのだが、自然の成り立ちが様々な偶然と結び合いつつ、滋味豊かに食文化の歴史を織りなしてきた経緯を学ぶのはやはり刺激的だ。例えば巽好幸『「美食地質学」入門』では、日本の昆布出汁文化とヨーロッパのブイヨン文化とを比較する。なぜこの違いが生まれたのか? 本書ではこの理由を、日本とヨーロッパとの地形の差異に求めている。ブイヨンの旨味成分であるイノシン酸を抽出する場合、灰汁(肉に含まれる動物性タンパク質が水に含まれるカルシウムと結合したもの)を取り除くことで清浄になるため、カルシウムの多い硬水を用いるのが好ましい。翻って昆布出汁の旨味成分はグルタミン酸だが、昆布のぬめり成分・アルギン酸はカルシウムと結合して皮膜を形成し、グルタミン酸の抽出を妨げてしまうため、カルシウムの少ない軟水を用いる必要がある。ところでヨーロッパでは石灰岩の地層が発達し、また川は緩やかに長い距離を流れているため、土中の成分を多く溶かし込み、硬水となっている。これに対して日本では火山性の地層が発達し、さらに急峻な地形であることから川が土中の成分を溶かし込むため、軟水となる。こうしてそれぞれの地形が異なる水質をうみ、それぞれの異なる水質が異なる食文化を形成したわけだ。
食に続いて住。『動く大地、住まいのかたち』の中谷礼仁は、アジアからヨーロッパへまで、火山帯を辿るようにして旅をしながら、「建物を作るときのレギュレーションが大地に潜在している」様に目を向ける。「潜在している」、というのが重要で、これは──食文化の場合でも同じことだが─文化的多様性を風土という一元的な要因へと還元する決定論とはまったく異なる。中谷は観光地として知られるサントリーニ島の純白の家並みについて、凝灰岩の層に横穴洞窟を掘り進め、火山性の黒石で延長した上で、白い火山灰を海水で練って漆喰として塗り込むことで形成されていることを指摘する。